誘電体と絶縁体_共通点と相違点

誘電体

誘電体について学ぶ場合、電磁気学の教科書を開くことが多いと思います。誘電体の項目を開くと、まず「誘電体とは」から始まると思います。多くの場合、「誘電体とはわかりやすくいうと絶縁体である」とあります。

では、誘電体と絶縁体は用語が違うだけで、まったく同じ意味なのか?いいえ、そんなことはありません。誘電体と絶縁体は言葉の由来も異なれば、使い方も大きく異なります。両者には共通点があるにすぎません。わかりやすい説明として、より身近な用語である「絶縁体」を持ち出しているだけです。

ここでは、誘電体と絶縁体の概要について、共通点と相違点を中心に説明します。

絶縁体

絶縁体とは、電気伝導性が低い物質のことです。電気伝導性の低さを指す指標を絶縁性と呼び、抵抗率で表します。理想的な絶縁体は、電気伝導性につながるような自由電子を持たず、抵抗率が無限大です。ただし、商業利用されている絶縁体の多くにはこのような理想的な特性を持つものはないので、いかに理想的な特性に近づけるか、という視点で、常に研究開発が続けられています。

絶縁体のもっとも一般的な用途は電線の被覆材です。これは、人体が通電部に接触するのを防いだり、電線どうしが接触して短絡するのを防ぐために用いられています。

電線の被覆材としての絶縁体に要求される特性として、低い誘電率があります。これは、絶縁体が大きな誘電率を持つと、コンデンサとしてはたらき、電子回路や電気回路の作動性に影響を与えてしまうからです。つまり、電流が流れてもいけないし、分極してもいけない、というのが絶縁体に要求される特性なのです。

電線の被覆材はなにも固体である必要はありません。空気も立派な絶縁被覆材になります。空気中を通る電線路(おもに送電線)は裸線であり、被覆材は使われていません。空気が絶縁材として機能しています。空気は比誘電率がほぼ1であり、高分子系の絶縁材よりもすぐれています。

誘電体

誘電体とは、一般的に、高い分極性を示す物質に対して使われます。ここでの分極性とは、電場を与えると誘電分極する性質のことです。誘電体が電場の中に置かれると、電荷は導体の場合とは異なり、誘電体内部を流れません。これは、誘電体内部をドリフトする自由電子や束縛が緩い電子を持たないためですが、まったく電子が動かないわけではありません。電場を与えると、電子は平均的な平衡位置からわずかにシフトします。これが誘電分極です。

誘電体が分極すると、正電荷は電場の方向へ、負電荷は電場と反対の方向へシフトします。例えば、電場がX軸と平行にあるとすると、正電荷はX軸の正の方向へ、負電荷は負の方向にシフトします。この現象により、誘電体内部全体に内部電場が形成され、外部電場と合わせた全体の電場が軽減されます。

もし誘電体を構成する分子同士の結合が弱いと、正負の電荷がシフトするだけではなく、分子の回転軸が電場に沿うように再配向(分子が向きを変える)し、これも分極に貢献することになります。

誘電体の特性は、比誘電率で表します。比誘電率は、誘電体が分極により貯めることができるエネルギー量を示す指標です。誘電特性を知るということは、物質が貯蔵し放出する電気と磁気エネルギーを知るということです。したがって、誘電体は電子工学や工学、固体物理学および細胞生物学のさまざまな現象を説明する上で重要だといえます。

理想的な誘電体は、抵抗率が無限大(導電率がゼロ)で、電圧を印加したときに変位電流だけが流れます。このとき、誘電体は理想的なコンデンサとして機能し、電気的エネルギーを損失なく貯蔵して放出します。

誘電体のもっとも一般的な例は、コンデンサの極板間に挟まれた物質です。誘電体が無い(真空)場合と比較して、誘電体の比誘電率の分だけ、コンデンサの極板表面に貯めることができる電荷量がより大きくなります。

誘電体と絶縁体の違い

このように誘電体と絶縁体を分けて眺めてみると、共通点と相違点がはっきりしています。

共通点は、どちらも抵抗率が高いことです。

相違点は、絶縁体は分極しにくいが、誘電体は分極しやすいことです。

世の中に存在する絶縁体は、いくらかは誘電分極します。したがって、絶縁体という大きな括りの中に、比誘電率が比較的大きい誘電体という括りがあると見ることができます。

コンデンサに用いられる材料を絶縁体ではなく誘電体と呼ぶのは、誘電率が重要な特性であるからです。絶縁体と呼んでも間違いではありません。ただ、コンデンサには絶縁部品は複数使われています。なので、単に絶縁体と呼ぶと、どの部品を指すのかわかりません。誘電体と呼べば、極板間の材料のことを指すことが明白なので、間違えようがなくなります。同様に、電線被覆材の誘電率がゼロではないからといって、被覆材のことを誘電体と呼ぶことは少ないと思います。被覆材の誘電率について議論するような場合は除きますが。このように、用途によって適した呼び方もあるのです。

まとめ

誘電体と絶縁体は、絶縁性と分極性の面から共通点と相違点を捉えることができますが、用途によっても使い分けられているのです。

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