前回に引き続き、電力用途である遮断器と入力/出力ACフィルタについて説明します。
遮断器
鉄道の踏切の遮断機ではありません。変電所のような、非常に高い電圧がかかっている回路を、負荷がかかっている状態で切断する装置です。装置の点検時のように、電源を完全に切ることができればこんな装置を使用する必要はありません。例えば、異常な電流が流れて、即座に回路を遮断しないと周囲に悪影響を及ぼす恐れがある、なんて場合にこのような遮断器が必要になります。
高圧の回路での異常電流は、下手すると数万アンペアなんていう電流になることもあります。こんな電流が流れつづけると大事故につながりますね。
電路の開閉
この世界では、回路を切ったり繋いだりすることを、電路を開閉する、といいます。この電路を開閉する装置には、対応可能な開閉時の電流の大きさにより3種類に分けることができます。
断路器
電流が流れていない電路の開閉をすることができます。電流が流れている電路を開閉することはできません。なので、設備の点検など、完全に電源を切った状態でないと開閉することはできません。
負荷開閉器
定格電流未満の流が流れている電路を開閉することができます。定格電流以上の電流が流れている場合、負荷開閉器で開閉することはできません。負荷開閉器しかない場合、異常電流に対してはヒューズを組み込むことで対応します。
遮断器
定格電流を超える電流が流れている電路を開閉することができます。もっとも負荷がかかる開閉器であるといえます。それだけに、さまざまな方式の遮断器が実用化されてきました。
遮断する仕組み
交流の場合は周期的に電圧がゼロの瞬間があるので、この瞬間に回路を切断すれば終わりです。ただ、実際はこんな簡単なものではないので、遮断器にはさまざまな工夫が凝らされています。
問題は直流の場合です。常に電圧がゼロになる瞬間がないので、電流が流れている状態で無理やり回路を切る必要があります。もし、高電圧、大電流の負荷がかかった状態の電線を空気中で強制的に切断すると、切断した瞬間に切り離した回路間にアークが発生します。このとき、回路は切り離しても、空気中を電流が流れ続けています。アークは空気が電離してプラズマ状態になったもので、導電性を持ちます。空気は一定の電圧までは絶縁性を発揮しますが、一定値を超えると電離して導電性を示すようになります。アークの温度は1万度に達するともいわれており、回路を切断できてもアークが発生するとその周辺がダメージを受けることになります。そこで、アークを発生させずに、以下に安全に電流を完全に遮断できるかがカギになります。
原理は簡単です。一瞬でいいので、回路の電流と逆向きの同じ電流を流して電流を停めればいいのです。この逆向きの電流を流すのに、コンデンサが使われます。基本的な仕組みは、回路と並列に接続されたコンデンサを常時充電しておきます。遮断時は、このコンデンサから回路に放電させて回路と逆向きの電流を流すことで回路の電流を強制的にゼロにしてから、物理的に回路を遮断します。実際には、リアクトルとコンデンサを組み合わせた共振回路を用いたり、遮断部を真空にすることでアークの発生を防止したりと、遮断器にはさまざまな技術が使われています。
遮断器の役割の広がり
近年、世界中で高圧直流送電(HVDC)の採用が広がっています。HVDCの送電電圧は800kVに達する事例もあり、事故発生時の対策として、遮断器が重要な役割を担っています。
日本では、長距離の送電をいえば交流をイメージする人が多いですが、欧州や中国ではHVDCによる送電網が広がり続けています。HVDCについては、また別の機会に説明します。
入力/出力ACフィルタ
コンデンサの基本的な働きは直流の平滑回路と同じで、交流の基本波(50/60Hz)の歪みを低減することです。ただ、直流の平滑回路とは異なる点があります。
リプル電圧と高調波
交流では波形のひずみを高調波と呼びます。高調波は、基本波の3〜40倍の周波数の波形のことで、基本波の5倍の周波数を持つ高調波を、第5高調波と呼びます。高調波は交流成分に重畳する交流成分、リプル電圧は直流電圧に重畳する交流成分という違いがあります。
高調波の影響
ここでは主なものを2点挙げます。この2点で高調波障害の90%を占めるともいわれています。
力率改善コンデンサの焼損
力率改善コンデンサの焼損
コンデンサに高調波が流れ込むと、異常発熱して故障することがあります。異常発熱するとコンデンサ内部の構成物が燃えて故障することがあります。これは、コンデンサのインピーダンスが低くなるからより大きな電流が流れ込むことによります。コンデンサのインピーダンスの大きさは次の式で表されます。
\(Z=\dfrac{1}{2\pi fC}\)
\(Z\)はインピーダンス、\(f\)は周波数、\(C\)はコンデンサの電気容量です。周波数の影響は明白ですね。力率改善コンデンサは力率改善のためのコンデンサなので、高調波成分を除去することを想定した仕様にはなっていません。そこで、高調波発生源に別の交流用コンデンサを設置し、高調波の外部への流出を低減することになります。
リアクトルの加熱や焼損
力率改善コンデンサと直列にリアクトルが接続されることがあります。この回路に高調波が流れ込むと、コンデンサのインピーダンスは減少するが、リアクトルのインピーダンスは増加する、という現象が発生します。リアクトルのインピーダンスの大きさは次の式で表されるからです。
\(Z=2\pi fL\)
コンデンサとリアクトルのトータルのインピーダンスが減少すると、より大きな電流が流れ込みます。ところが、リアクトルはインピーダンスが増加しているため、より発熱し、最悪の場合は焼損に至ります。
高調波と高周波、ノイズの違い
これらの用語は下記のように意味が異なっています。混同しないように注意しましょう。
- 高調波: 基本波と同期する。40次程度まで。
- 高周波: 40次を超える周波数。
- ノイズ: 基本波と同期せず、単発的に発生する。
なぜ高調波が発生するのか
単純な抵抗負荷(電熱線など)では高調波は発生しません。入力電圧の波形を変えるような回路があると、そこで発生した歪みが高調波として外部に流出します。このような回路の例としては、ブリッジ回路、半導体素子、変圧器の鉄心、溶接機などで利用されるアーク電流などがあります。
全高調波歪
基本波の歪みの程度を表す指数として、全高調波歪があります。基本波成分に対する全高調波成分の比です。コンデンサの負荷電流の全高調波歪が大きいと、異常発熱などにより、思わぬ故障につながるおそれがあるので注意が必要です。
その他
高調波については、さまざまな規制があったり、もっと複雑な要素があったりと、全体像を正確に把握するのは容易ではありません。しかし、コンデンサに関して述べるという、このブログの趣旨から外れるので、このあたりで終わりにします。興味がある人は他のサイトなどで調べてみてください。
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