コンデンサの用途は幅広いですが、いずれもコンデンサに充電して放電するという単純な使い方です。ただし、このコンデンサを他の電子部品と組み合わせたり、交流を印加することでさまざまな機能を引き出すことができるようになります。これは、コンデンサだからこそ果たせる機能であり、電気エネルギーを蓄える点では同じ電池では果たせません。ここではパワーエレクトロニクス関連のアプリケーションを中心にいくつか挙げます。
瞬低補償装置
”瞬停”ではありません。”瞬低”です。”瞬時電圧低下”のことで、瞬間的に電圧が低下することを指し、電圧がゼロになることは指しません。電圧がゼロになると、”瞬停”または”停電”になります。JISにおける瞬低の定義は「電力供給システムのある地点において発生し、短時間で復帰する突然の電圧低下」です。
瞬停と瞬低の発生原因は多くを自然現象、特に落雷が占めているといわれています。落雷で停電することは多くの人が経験していると思います。中には落雷しても停電はせず、電力網の電圧が不安定(通常より下がる)場合があります。ただし、電力網の安全機構が即座に働いて正常な状態に回復します。もし回復させることができない場合は故障点を切り離し、正常な電力網から故障点周辺へ電力供給を継続することにより停電を回避します。このごく短時間の電圧不安定化が瞬低で、時間としては1秒未満を指すことが多いようです。
瞬低が発生した場合に電圧を正常に回復させるのに必要なのが、低下した電圧を即座に補償する能力です。この能力を持つ蓄電デバイスがコンデンサです。図はラゴンプロットです。横軸にエネルギー密度を、縦軸に出力密度を取ったグラフです。斜めの破線は放電可能な時間を表しています。図の中で電池は右下のエリアを、コンデンサは左上のエリアを占めることがわかります。これは、電池は放電時間は長く取ることができるものの、放電時の電流を大きく取ることができないことを示します。一方、コンデンサは放電時間は短いものの、放電時の電流を大きく取ることができることを示します。つまり、コンデンサは短時間しか放電できないものの、瞬時に大電流を取り出すことができることを意味します。これが、コンデンサが瞬低補償装置に適しているといわれる所以です。ちなみに、図の青いエリアは電気二重層コンデンサで、コンデンサと電池の中間の特性を持ちます。
出典:Metal Oxides in Energy Technologies
ストロボ(フラッシュ)
カメラに付いている、光るアレです。ストロボを発行させる回路にはコンデンサが組み込まれており、コンデンサが蓄えた電荷を一気に放電させることで発光させるものです。カメラのフラッシュを使用しようとすると、少し待たされることがあります。このとき、カメラの中では内臓の電池がコンデンサを充電しており、充電完了したときに、フラッシュが使用可能になります。
スマホのカメラを使用するときに光るフラッシュは、電池で直接発光させるので、待たされることはありません。ただ、光量はコンデンサを使ったフラッシュに劣るようです。
電力変換機・電源回路
平滑回路といわれているものです。交流を整流したあとの脈流を平滑化するのが平滑回路の機能です。身近なところでは、電子機器のACアダプタに平滑回路が組み込まれています。
整流には全波整流と半波整流がありますが、ここでは全波整流回路について説明します。正弦波交流が全波整流回路を通ると、周波数や波形はそのままで、負電圧分がすべて正電圧に変わります。これを、コンデンサの充放電を利用してきれいな直流へ近づけていきます。コンデンサの静電容量を変えることで、平滑化の程度をある程度調整できますが、完全な直流へ一度で変換することはできず、脈流(電圧の細かな変動)が残ります。これをリプル電圧と呼びます。どの程度平滑化が必要化は、出力した直流を利用するアプリケーションがどの程度きれいな直流を要求するかで決まります。
電力変換装置では、インバータの半導体素子(IGBT)が正常に動作するのに必要な直流電圧のリプル電圧の限度が定められています。この装置では、平滑化した直流電圧に含まれるリプル電圧が制限を超えないように、平滑回路が設計されます。
パルス電源
瞬間的に大電力を出力します。コンデンサの役割は充電と放電の繰り返しですが、リアクトルと組み合わせるなどして、瞬時に数十kVの電圧を発生させます。ただし、放電時間はマイクロ秒からナノ秒レベルと非常に短時間です。これが、1秒間に数万回繰り返されます。
パルス充放電を利用するアプリケーションとして有名なものにはレーザーがあります。レーザーは半導体を製造する装置に広く利用されているため、ある意味身近なアプリケーションといえます。
溶接機
コンデンサ式抵抗溶接機にコンデンサが使われています。抵抗溶接機は、金属部品間の溶接したい部位に大電流を流すことにより金属の温度を融点以上まで加熱し、接合します。コンデンサ式は瞬間的に大電流を出力することができるため、放熱しやすい金属(銅やアルミニウムなど)の抵抗溶接に適しています。
抵抗溶接の原理は、金属に電流を流すことで溶かしてくっつける、という非常にシンプルなものです。ただし、理想的な溶接を行うにはさまざまなノウハウが必要になります。電極材料の選定と清浄度、電極を押し付ける圧力、予備加熱、溶接電流、溶接時間などをすべて適切に設定する必要があります。
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